鈴木晃

同じ状況で浴槽で急死した場合でも、医師によって事故死(外因死)と判断され「溺死」となったり、病死(内因死)と診たてられ、たとえば「心疾患」のなかにカウントされたりする。 このことを事実をもとに推定しているのが、東京消防庁と東京都監察医務院による実態調査(1999年)である。これによると、入浴に起因した救急隊の出動では、疾病に起因する「急病」と分類されたものが「事故死」とされるものより多い。また「病死」扱いのものと「事故死(溺死)」扱いのものとを解剖して調べた結果、その両者に統計学的な相違はほとんど認められなかったという。したがって、浴槽での「溺死」という概念では、実態を必ずしも正確にとらえられず、「病死」に扱われるものも含めて「入浴中の急死」という概念でとらえるべきことを提起している。その概念で推定すると、1999年の全国の「入浴中の急死」数は、「浴槽内での溺死」(2,972人)の4.8倍に相当する1万4千人にもなるというのだ(図)。